正夢はお皿を拭いて
「もうすっかり春ですね」
「え?」
「え?」
「9月」
「え?」
「今9月ですよ」
「え?今あたしなんて言ってました?」
「もうすっかり春ですねって」
「え?なんでそんなこと言ったんですか?」
「知りませんよ、君のことは君にしか」
「え〜、綺麗な言葉喋りますね」
「バカにしてるでしょ」
「そんなわけないじゃないですか!」
「春の話はどうなったんですか、俺それが気になってるのに」
「ええ〜…と…」
「…」
「…」
「………あの」
「あっ!あのね、あのですねえ」
「はい」
「こうやって隣り合わせでお皿拭いてるじゃないですか、今?」
「うん」
「いま私すんごい気まずくって、あ、ごめんなさい、時間が永遠のように思えたんですけどね」
「……はい」
「そしたらなんか、2人でお皿を拭いているうちに地球が何周もして季節が変わってるように思えてですね、そしたらもう、私達すんごく仲良くなってるような気になっちゃって、一緒に海行って、山行って、年越して、雪見て桜見たような、そんな気に。」
「…」
「そこで意識が戻ってきて、あ、なんか、言わなきゃって、思って、咄嗟に言葉発したんですけど、言葉だけ時空超えたまんまでした」
「へえ〜〜…」
「引きました?」
「引いてない」
「あれ?なんか優しいですね」
「俺と海行ってたの?」
「そう!あと山と、年越しと、雪と桜!」
「すんごい仲良いじゃん」
「そうですよ〜」
「ふーん…」
「行きます?」
「え?」
「え?いや海」
「に?」
「行かないんですか?」
「…………行く」
「じゃ、お皿拭き終わったら。」