あれ?

ショウシャ

ひびきちゃん

ひびきちゃんは私の親友だった。親友だった?親友だった、保育園の頃の話だが。

もう私というのはひびきちゃんが大好きで大好きで、ひびきちゃんが来ない日の保育園は何の意味もないと子供ながらに思っていた。私の誕生日に1月と1日を足せばひびきちゃんの誕生日になる、これは運命だと興奮したこともあった。


小学校は別々になったが、それでも私はひびきちゃんが好きだった。初めての夏休み、私はひびきちゃんに会いたかったから、ひびきちゃんの家に電話をかけた。もしもし、ひびきちゃんいますか、いっしょにあそびたいんですけど。ひびきちゃんの母親が出て、ひびきは今日ダメなのよ〜って言ったかな。ああ…そうなんですか… しょぼん となった私がいた。

今ではおよそ考えられないのだが(自分にその熱量があることが)、私はその後夏休みが終わるまで毎日電話をかけ続けた。へこたれなかった。私はなんとしてもひびきちゃんに会いたかったのだ。

でも会えなかった。

いつもひびきちゃんの母親が出てひびきはダメだと断るばかりだった。夏休み最後の日、つまりはひびきちゃんに電話をかけた最後の日、ついに私は泣いてしまった。泣き出した私を母親が抱きしめた。


私はひびきちゃんにプレゼントがあげたかったのだ。なんで用意したのかわからないけど、シナモロールのポーチを母親に買ってもらったのだ。ひびきちゃん用に。当時我が家はそんなに裕福じゃなかったはずだけど、私の気持ちを汲んでくれたのだろうか。私はひびきちゃんにプレゼントを渡して、ひびきちゃんが喜んでくれる顔をずっと想像してたのだ。


でもそれは全部起きることはなかった。母親が、これはお母さんがひびきちゃんの家に届けてくるよと言った。うん…と言って私は電話を手から離した。


その後私はさっぱりひびきちゃんを忘れた。別に怒ってない。嫌いじゃない。でも忘れたのだ。二度目の夏休みが来ても、もう私はひびきちゃんの家に電話をかけなかった。ひびきちゃんを思い起こすことがなかった。確かそのあと一度お祭りで会ったけど、懐かしい気持ち以外に(子供が懐かしい気持ち持つのも嫌な話だが)湧き上がるものもなく、会話もあまりしなかった。


その後ひびきちゃんは私の地元では結構頭の良い中学を受験して合格したと聞いた。ふ〜ん。それで今現在何をしてるのか、全く知らない。知る気も別に、起きていない。

まあ保育園の頃の繋がりなんて誰しもそんなものなんだろうが、私は本当に大好きだったのだ、子供の頃としては。でもそんなの、すぐ忘れちゃうんですね。あんなに仲良しだったのに。本当は仲良しじゃなかったのかな?実際の部分は思い出せない。

今彼女に会ったとしても、懐かしさすらも湧かないだろう。



ちなみに最近母親に言われたのだが、結構ひびきちゃんの母親は意地悪だったらしい。間違った情報を押しつけてきたり、キツい発言をしたり。ふ〜ん。知らなかったなあ。



ひびきちゃんと会えなかった夏休みの後のとある夜、ひびきちゃん家がやっていたお店の前を車で通った。ひびきちゃんの住む町にはさびれた商店街があって、ひびきちゃんの両親はそこにお店を出していた。

ひびきちゃんちね、もんじゃ屋さんやってたんだよ、もう潰れちゃったんだけどね。と母親が言う。


ふ〜ん。オレンジの外灯に照らされてお店の黒い屋根が見えた。大きな文字で店名が書いてあった。そうなんだ、つぶれちゃったんだ。


車は特に止まることもなくひびきちゃんちの店を過ぎ去った。私はひびきちゃんの店からさっさと目線を外し前を向いて、暗いだけの道を見つめた。


私はもんじゃを食べたことがないし、潰れるの意味もよく知らない。


寝ることにした。