あれ?

ショウシャ

LETTER: 信号→ツナマヨ 私

どうもお久しぶりです。手紙、ありがとう。君のお手紙は実家に届き、母から私の元へきちんと送られてきました。最初は唐突な手紙に少し慄きましたが、読んでいるうちに嬉しくなりました。やっぱり手紙はいいものですね。文明の遺産です。


あ、でもちょっと私は怒っています。君は私を覚えていなかったと言いましたね?失敬な。君は信号の紳士を見る度に私を思い出したりはしなかったのですか。

私もあのやりとりのことはよく覚えていませんが、君について覚えていることがあります。君は当時、君の言葉で言えばしょうもない日々を過ごしていたようですが、ただその中でもクラスメイトの宮くんは面白くて好きだったようで、「宮はツナマヨおにぎりにバカみたいにマヨネーズをかけて、結局かけすぎてしょっぱいと泣いて、またその涙でしょっぱくなって泣いて、を繰り返すバカなんだけど、僕はそれで今世紀最大に笑いました」って、書いてたの、覚えてます。(この文は私も当時好きで何回も読み返していたから、多分一字一句間違えていませんよ。)

あれから私はコンビニでツナマヨおにぎりを買う時、あ、彼はまだ宮くんの涙に大笑いしてるのかしらと、思い出すようになってしまいました。君は(宮くんもですけど)何気に私の日常で息してるんですよ、今でも。

だから君は私を覚えてないなんて、ちょっとショック〜〜…ですよ!

宮くんとはまだ仲良くやっていますか。


さて、信号の話ですが。あ、その前に君の手紙の話ですが。君は私を面白かったなんて書いてましたけど、君も相当面白い、というか変ですよ。文通のリフォーム、の意味がよくわかんなかったし、住所のことをアドレスって言い方をするのも、わざわざな人だなあと、思いましたよ。私は手紙を読みながらずっと、クスクス笑っていました。

信号の話、半分意味わからなかったですけど、半分、意味わかりました。点滅の奥に人がいるってところ。あれは素敵ですね。

私たちの日々は、私たちのよく知らない人々によって構成されて守られているんだよなって、思います。とか言って私たちも、本当はよく知らない間柄ですね。あの中学二年の約半年間の、手紙の中だけの関係。それが今の私たちの日々を構成してるってことですかね。不思議ですね。あ、宮くんもかな。


信号の紳士はもう、心惹かれません。私は飽き性なので。今は、10年くらい飾られたままの、理髪店の看板に写ったカットモデルの女の人のことをずっと考えています。彼女、今何してるのかしら。というか、何してた人なのかしら。彼女はこの看板、今見たら、どんな気持ちになるのかしら、なんて。


君に応じて書いてみたら、私もなかなか、散文ですね。手紙はむずかしい。今度があれば、君のペットのはなしを。仕事はいいです。


あ、うんどうかい。君が勝ったと信じる方が勝っているんじゃないでしょうか。それでいいと思います。赤組が勝つ世界線も白組が勝つ、引き分ける、雨天中止、の世界線も、本当はあるんだと思いますよ。私はパラレルワールド、あると思います。だから、わからないものは、君の信じる結末でいいんじゃないですか?


てことは、私たちが文通しない世界線もあるんでしょうかね。不思議。文通しなかったらどうなんでしょう。一生お互い知らないままの世界?それとも身近で、顔見知りの世界?それも想像するとわくわくしますね。


あー、まとまりがない。しょうがない。君の手紙は届いたから、きちんとお返事お届けします。


ぱ。




LETTER: 信号 僕

お久しぶりです。僕を覚えてますか?本当のことを言うと僕は君を覚えていなかったのですが、実家がリフォームするというので、秘められし押入れをガサ入れしていたら、君との文通の痕跡が出てきまして、あー、これはこの文通もリフォームしなくては、と思いまして、お手紙を書くことにしたんです。当時のアドレスにそのまま送ったので、これが届かなければ、仕方がないのですが。

 

中学二年の頃でしたね。僕は当時毎日しょうもなすぎて文通相手をインターネットで探したんでした。インターネットがあるのに、文通をやりたがるところが、僕の青い部分ですね。でも応じた君もなかなかのものだと思いますよ、今になって考えてみれば。

 

当時の文通の内容を、僕はほとんど覚えていません。自分で誘っておきながら、なんて奴なんでしょうね。すみません。

ただ一個だけ覚えてるんですが、君は歩行者信号が好きだって書いていませんでしたか?あの信号の人が、紳士な格好をしてるところが、微笑ましくて好きだと言っていましたよね。僕はあの時、よくみてるなあとしか思わなかったんですけど、君は結構面白いことを言う人でしたね。

信号のことを言うと、僕は最近横断歩道を渡る時、青い光がチカチカするまで、渡るのを待つようになりました。チカチカと、信号が「急がないと危ないですよ」って言うので、「平気だよ」って僕は心の中で言って、悠々と歩くのが楽しみになってしまったんですよね。

世の中に溢れる 光の点滅というのは、僕を知らない誰かからの、危険を知らせるやさしいメッセージなんだなって最近思うようになったんですよね。ハザードランプとか、インターホンとか、うん、挙げると意外と少なかったんですけど、僕は点滅の奥に人がいるんだって思って、嬉しくなったんです。

信号好きの君としてはどうですか?

今でも信号の紳士は、好きですか。

 

届かなかったらどうしよう、笑える。

届いたら、返事くださいね。この際、ま、とか、ぱ、とかでもいいんで。でも、封筒から便箋出して開いたら ぱ だけだったら、相当ウケますね。

 

リフォーム出来たのか、しっくりこないですけど、とりあえずはこれで。書くと思い立ってから、いろんなことを書こうと考えていたのに(仕事とかペットとか)、結局信号の話しか書けませんでした。筆下手(?)なのは直らなかったです。

あ、今朝近くの保育園でうんどうかい、やってて。赤組がんばれーって思ったんですけど。仕事終わって帰ったらもうとっくにうんどうかいは終わってて、赤組が勝ったのかはわからずじまいになったのが、悲しかったです。

 

またどうでもいいことをなぜか書いてしまった。君にはそういう話をしたくなるんですかね。だから文通の内容も忘れてしまったんですよ、きっと。消すのも面倒だから許してください。

じゃあ。

 

 

夏の窓から風は吹く

「いつか覚えてないけど」

「ん?」

「ドラマを観たの、少しだけ古いドラマ」

「うん」

「なんだっけな……忘れちゃったけど…音楽はすべての芸術の上に立つって、そんなセリフが出てきたの」

「うん」

「別に重要な人の、重要なセリフじゃないんだけど。なんか、胸に染み付いてね」

「うん」

「あー、そうなんだー、いやそうかもなー、いや、そうだって、最近、思うようになった」

「どうして」

「ね、軽音部って楽しい?」

「うん?んー…中庸。」

「あは、なにそれ」

「俺、あんまり友達作れないんだよね」

「ふーん。ギターかっこいいのにね。」

「そう?サンキュー。」

「高校生にもなって上手く渡り歩けないのはどうしようもないね」

「ふっ、そうだね」

「でも放課後1人教室でギター弾いてる男って、いいね、絵になる」

「格好ぐらいつけたいし」

「ふふ………わたし君のギター聴いて」

「うん」

「あのドラマのセリフは本当だったんだって思ったの」

「……」

「素敵だ熱いなって思って」

「……お前は歌わないの?何か」

「歌ってあげようか? 

ン〜〜♪ 友達もできない〜♪あわれな日々でも〜♪ギターがあればいい〜〜♪」

「おい、俺の歌じゃん、それ」

「即興、センスあるでしょ」

「なんか適当に弾くから、お前のこと歌ってよ」

「ええ?いいの?太っ腹じゃん」

「いいから、ほら」

「ええ〜〜… フーン♪フフンフーン♪……

毎日家に帰るだけ〜♪おんなじ道しか知らないけど〜♪ 嫌いじゃないよ♪そんなに〜♪」

「ふ、いいじゃん」

「さらさらしてる風とか〜♪刈られた田んぼとか〜あ、みるのが〜♪好きです〜♪」

「『好きです』」

「好きだから」

「お前の歌だな」

「伝わった?」

「100%」

「あはは」


TEL:遠距離 m

もしもし?ユキ?あ、今よくなかった?あ、良かった。バイト?なんだっけ。ああ、イタリアン。あ、あの写真のやつか。あそこお洒落だよな。って俺は思ったけど。あ〜、慣れちゃうか。だよな。

ん?俺?いや大学生だけど?はは。ああ、バイトね。 ん〜〜…まあ〜〜まだ〜〜考え中〜〜的な〜〜?それよ。…いやそれじゃない、お前、全国のバイトしてない大学生馬鹿にすんなって。…おい。俺も馬鹿にすんなって。

…………え、なに?ああ。あー、女子ね。お前とは違う、ジョシ、ね。あれ?あなたもジョシになられては…?はは。ああ、インスタ出来ないタイプの人でしたね。ん?どれ。え?あ〜と…あ、これか。え?何これ?俺こんな顔で写ってた?いや、笑い過ぎ…ちょ、アイコンにするなって。変えろって。おい〜〜もうお前……あ、いま何時?何分?あ、そろそろだわ、やべ。あ、休憩!が、終わるから!もうバス乗る!え?海老名SA。え?……知らん。俺も知らん。

うん、あと1時間くらいだと思うよ。まだ家にいるでしょ?え、早すぎるじゃん?…あ、そう?大丈夫?そう…。あ、なんかそっちで食うお菓子とか買おうと思ってんだけど?選んでいい?…え?あ、そっち?いいの?了解。…あー、俺は本気だぞって?あ、彼女に早く会わせないと撃つぞって?そうするわー。あ、じゃあ乗るわ。じゃね。後で。

…………愛してるよ。…いや、愛してるよって!あー!!いー!!全然聞こえてないんかよ。……なんでもない。ああ、うん、バイバイ。…

TEL:遠距離 f

はーい。うん。ん?ううん、ちょうど今帰ってきたところだから、へいき。え?そうバイト。イタリアンイタリアン。そう〜、前送ったとこね、覚えてんだ。あー、まあ結構お洒落かもね。いやもうバイトでずっと行ってたらさあ、そう、見慣れちゃうもん。わかんなくなってきたよ、ふふ  

あれ?あんた今何やってんだっけ。…いやわかってるから。ていうか私もそうだから。そうじゃなくてバイト。やってないんだっけ?

あー、探し中ね、ハイハイ。後期から始めます〜ってやつね。こ〜うきから、はじめますぅ〜ってやつね。ふふふ、や、バカにしてない、あんた以外は。ええ?はいはい。ふふ…

…わー……え?いやいま写真みてて。クラス会の。グループにアルバム作ってくれてんじゃん、女子たちが。そ。ジョシが。ふ、え?いえいえわたしはもう、おこがましいですので…そんなタイプじゃないの知ってるでしょうが。そう。あねえ、何?この写真?あたしとあんたとやっきょんで写ってるやつ。あんたの顔ひどすぎない?目が、目が死んでんだけど、あはは!何回見てもおもしろいわ。好きこの写真、アイコンにしとくわ。ええ?飽きるまで変えない。ふ… え?何ぜんっぜん聞こえない。あ休憩終わり?いまどこ?あー、海老名ね。海老名って割と最近綺麗になったんだっけ。それ御殿場か。ん?わかんないや

じゃあ、あと1時間くらい?はいよ。うん?いやもう出る。待ってるね。適当に時間潰してるよ。うん。うん。いいよ。あ、いいよって、買ってこなくていいよって意味ね。うん、うん。早く着くように運転手脅しといて。そうそう、彼女に早く会わせんかいって。そうそう。うん。ん。はーい。んん?………………何言ってるか全然わからん。充電6パーしかないからもう切るよ?後でね。…ばいばい。

 

 

ばいばいの前に夢を

「最近へんな夢しか見てないんよ」
「へんな夢って、どんなん」
「わからん」
「は?なにそれ…」
「へんな夢だって感触と、空気は確かに体が覚えてるんだけど、それがなんの夢だったかは全く覚えてないんよ」
「ええ?あ〜…まあでも夢なんて覚えとらんわな、起きた時」
「そうやんね?でも、」
「うん?」
「なんか、あんたがすんごい八重歯むき出しで笑っとった時とか」
「うん」
「あの〜現国の先生、なんつったっけ、新しい人、」
「中山ン」
「それ、中山ンが、ほら喋る時首揺れるやろ?ぶりっ子女みたいに」
「揺れるね!男のくせにな!」
「そん時とかね、そのへんな夢みたときのこう、じわ〜っと嫌な感じ?」
「うん」
「あれだけ思い出すん」
「なにそれ…………え?あんた今わたしのことディスったよね?」
「………」
「いやなんか言えよ」
「へんな夢は結局、一個も思いだせんかったなあ」
「いや……まあええけど」
「卒業する前にあんたに一個くらいは、夢の内容教えてあげたい」
「なんでよ。別にいらんけどな。」
「あんた、このわたしが、わたしのみた夢の内容教えたろうって、これがどんだけ大きな意味をもつかわかっとらんの?」
「わかっとらんわ」
「まあ、意味とか、ないけど……」
「やっぱりな、…ちょっと、わたしの机で寝んといてよ」
「んん〜〜〜〜、眠いんやって、ほんとに」
「あれ?昨日20時にLINEしても返信してこんかったん誰よ?」
「誰?知らんなぁ〜…」
「あんたやって。昨日はよう寝たん違うんけ?」
「昨日は……シャドバ?」
「勉強せえよ、本当に、わたし浪人生と友達ではいられんからね?」
「えっそれ、差別発言やよ。ヘイトヘイト。あかんよそんなん。」
「そんなん言えるがやったら勉強せえって。マックでも行く?」
「んん……」
「どっち?行く?行かない?はよきめて?」
「いく………」
「オッケ。そしたらもう行こうよ。」
「ん〜〜…。了解…。」
「寝んといてよ?」
「はあ…」
「……」
「あんた……来年は近くにおらんのか…」
「……そうよ。やからあんた1人でも勉強ちゃんと出来るように今からなって………ちょっと、あくびせんといて」
「今年のうちは、許してよ」
「わかったから、はよ、勉強して、うちに帰ってから寝な。」
「……今日は、夢、忘れんようにするね」


正夢はお皿を拭いて

「もうすっかり春ですね」

「え?」

「え?」

「9月」

「え?」

「今9月ですよ」

「え?今あたしなんて言ってました?」

「もうすっかり春ですねって」

「え?なんでそんなこと言ったんですか?」

「知りませんよ、君のことは君にしか」

「え〜、綺麗な言葉喋りますね」

「バカにしてるでしょ」

「そんなわけないじゃないですか!」

「春の話はどうなったんですか、俺それが気になってるのに」

「ええ〜…と…」

「…」

「…」

「………あの」

「あっ!あのね、あのですねえ」

「はい」

「こうやって隣り合わせでお皿拭いてるじゃないですか、今?」

「うん」

「いま私すんごい気まずくって、あ、ごめんなさい、時間が永遠のように思えたんですけどね」

「……はい」

「そしたらなんか、2人でお皿を拭いているうちに地球が何周もして季節が変わってるように思えてですね、そしたらもう、私達すんごく仲良くなってるような気になっちゃって、一緒に海行って、山行って、年越して、雪見て桜見たような、そんな気に。」

「…」

「そこで意識が戻ってきて、あ、なんか、言わなきゃって、思って、咄嗟に言葉発したんですけど、言葉だけ時空超えたまんまでした」

「へえ〜〜…」

「引きました?」

「引いてない」

「あれ?なんか優しいですね」

「俺と海行ってたの?」

「そう!あと山と、年越しと、雪と桜!」

「すんごい仲良いじゃん」

「そうですよ〜」

「ふーん…」

「行きます?」

「え?」

「え?いや海」

「に?」

「行かないんですか?」

「…………行く」

「じゃ、お皿拭き終わったら。」